病院経営をとりまく環境はダイナミックに変化している。人口減社会に突入したわが国では、「人生100年時代」と呼ばれるなど世界的にも例を見ない少子高齢社会を迎えている。政府は社会保障システムの再構築策として、従来の全国同一スタイルから地域単位で医療や介護を考える地域包括ケアシステムへと切り替え中である。また、増加の一途をたどる医療・介護の費用は、診療実績データを用いたアウトカム重視にシフトさせていっている。
このような中、それぞれの地域の人口構造の変化に寄り添った地域医療構想を医療計画に組み込み、病棟を高度急性期・急性期・回復期・慢性期に振り分けて整備目標病床数を定め、その数字の見直しを適宜行いながら具体的な“需給調整策”をステークホルダーに求めてきている。
高度急性期・急性期は患者要件が一層シビアになり稼働率の低下が見込まれる。減床削減、病棟閉鎖、機能変更がおきてくる。回復期はポストアキュート一辺倒から、在宅や施設から軽度急性期の直接入院のサブアキュート機能が求められる。高知県に多い慢性期は、介護医療院の誕生に伴って、生活機能と看取り機能に重きを置く病床が岐路に立つことになる。
人口減社会は患者減だけでなく働き手減社会でもある。外国人労働者の手やAIやICT、IOTによる効率化で労働生産性を高める経営の工夫も欠かせない。
病院経営幹部は、それぞれ地域におけるこれらの環境変化因子を的確に把握して、根本的な経営資源の再配分を行うなどの対応が迫られている。
本書は、前半で日本の医療を取り巻く環境と将来展望を種々の資料とデータを駆使して克明に紹介している。後半では、それらの環境変化に、経営幹部が危機感を持って意識改革を行い、自院の経営管理の改善の在り方や再構築の方法を著者の経験と多くのビジネスモデルを紹介しつつ詳説している。巻末には、病院経営の再構築にすぐに役立つ院内規定や経営管理フォーマット等の資料を多数掲載している。
本書は、これからの医療の行く末に漠然とした不安を持つ地域の医療経営者に必携の書である。
序 変革をせまられる病院経営環境
1. 人口増を前提とした集権型保険医療システムの限界
2. 少子高齢化がもたらす医療経済への影響
3. 病床機能の明確化と連携医療の推進
参考[1]医療法及び医師法の一部を改正する法律案の概要
4. 社会全体にみる経営環境の変化
5. 医療産業に押し寄せる八つの改革とその意味
6. 病院経営環境に影響をもたらす社会的要因
7. 病院経営環境に影響をもたらす政策的要因
8. 病院経営環境に影響をもたらす経済的要因
9. 病院経営環境に影響をもたらす技術的要因
10. 診療の質を高い水準で確保する:質の均一化と適正評価
11. 経営データ重視のマネジメントにシフトする:時代に合わせた姿の追求
12. 労働生産性向上を意識する:戦略的経営管理の導入
13. 地域から支えられる医療機関となる:職員の潜在能力の源泉となるもの
14. 理事長/院長と経営幹部に必要な意識改革
参考[2]知っておきたい経営管理の理論 病院に導入するために
15. 部門間の連携と統合
16. 職員の潜在能力の発揮
参考[3]病院における人事制度の設計について
参考[4]ヒューマンマネジメントについて
17. 医療提供サービスの改革
18. 理念を中心とした経営体系と職員への浸透
19. 経営ビジョンを達成させるための経営の柱
参考[5]地域医療連携推進法人について
20. 財務体質の改善のための長期プラン
参考[6]認定医療法人について
21. 病院経営管理の再構築ステップ
22. 経営会議はなぜ必要なのか
23. 成果が上がる経営会議の条件
24. 部門別改善活動がもたらす成果
25. 成果が上がる部門別改善活動の条件
26. 部門連携改善活動がもたらす成果
27. 成果が上がる部門連携改善活動の条件
1. 院内規程のサンプル集
2. 第7次医療法改正における医療法人の機関等に関する主な改正点
3. 外部監査が義務づけられる医療法人の基準、医療法人が都道府県知事に届出を行うことを要する関係事業者との取引
4. 経営管理フォーマット
5. 部門ごとの機能・役割
震災時の医療機関BCP